宮崎曉と、フウガ・イズムの正体

Column #01

 

宮崎曉と、フウガ・イズム正体

文=本田好伸

Chapter 2

フウガ・イズムとは、疑うこと

宮崎の実像に迫る取材のもう一つのテーマは「宮崎曉を通してフウガを知る」こと。

近年、特に太見という象徴的な選手が引退してからのフウガに、僕は少なからず物足りなさを感じてきた。漠然と「かつてのパッションが薄れたのではないか」という疑念はあった。だが、そこに根拠はなく、理由が明確に見えてこないために、チームを深く知る選手の言葉に頼ろうと思ったのだ。

フウガ・イズムとは、疑うこと

「今のフウガはどうなのか?」と聞くと、宮崎はこう答えた。

「いいですね。確実に強くなっています。完全に進化していますよ」

決してネガティブな話題に振るつもりはなかったが、意外な回答に面くらった。

「停滞感はない?」と聞くと、「ない」と言う。ということは、僕が抱く違和感の正体は何なのか。

「Fリーグに入ってから、確実に他のチームに寄りましたよね。それはうまくなったという意味です」

やはり、こちらの疑惑とは焦点がズレる。しかし、次の言葉に、核心を見た気がした。

「一昨年のシーズン(2018シーズン)、僕とガリンシャを組ませなかったのは失敗だと思う」

ともすれば監督批判。でも、真意は違う。

 

(2019/2021シーズンは、宮崎とガリンシャのコンビから多くのゴールが生まれた。宮崎は17ゴール、ガリンシャはリーグ3位の33ゴール)

 

「須賀さんの言うことは、実はけっこう変わる。ピヴォを使うとか、クワトロでやるとか、シーズンごとでもかなり違う。ブレないのは攻守の切り替えや雰囲気。でもコンセプトや戦う手段が変化するんです」

どういうことか。

「昨シーズン(2019シーズン)も、開幕前は僕とガリンシャが別々のセットでした。須賀さんとは『誰と合う?』という話をしたこともあって、僕はガリンシャと組みたいと伝えましたが『ガリはアラっぽいし、おまえとは合わない』と。でも、開幕直前の練習でたまたま組む機会ができて、やってみたらすごくハマった。結果的に、今シーズンはずっとガリンシャと組んでいたわけです。須賀さんの狙いとしては、ガリンシャはピヴォですけどアラの位置にも下りてきてパス回しに参加してもらいたかったのですが、僕はできるだけ張らせたいと考えていました。その方が生きると思っていたので。今では、ガリンシャも前で張りたいと言うようになりました」

おそらく、このやりとりが「フウガ・イズム」の正体の一つではないかと思う。フウガとは、自分たちで答えを探してきたチーム。須賀監督が「こうしろ」と決めて、それにイエスで答えてきたチームではない。

日本一になる少し前から、戦術の幅を広げるために、須賀監督は4-0(クワトロ)システムを持ち込んだ。しかし、「いや、3-1がいいでしょ」と疑問を投げかけたのが太見であり、その結果、須賀監督は練習で3-1と4-0のチームを分けた紅白戦を行い競わせる形を取った。その過程で太見も4-0の価値を認めると同時に、周囲は改めて3-1の強さも知ることになり、フウガは両方を使い分けるチームへと進化していった。

つまり、フウガはみんなで正解を見つけてきたということ。須賀雄大という絶対的な存在がチームを導いてきたことに疑いはないものの、一方で須賀監督の言葉は、「指針」であり「絶対」ではないのだ。

 

(太見の引退まで、宮崎は常に太見とともにピッチにあった。Fリーグ参入初年度にはリーグ4位の23ゴールを上げた)

 

「フウガは、すごく選手に裁量があるチームだと思います。須賀さんがやってほしいとするものが『5』だとすると、僕はそこで『3〜7』くらいを目指します。それを須賀さんはダメと言わないですし、仮に『7』でいいものを出せたらそちらに軌道修正してくれる。すごく柔軟だと感じる部分があります」

逆に言えば、「5」と言われて「5」をやるだけでは認めてもらえない。監督のオーダーに添えるという意味では優秀でも、フウガでは決して、それだけで大きな評価を得ることはできない。

「そういうところも含めて、僕は須賀さんと意見が合うんだと思います」

 

(2010年、宮崎フウガ加入2年目のシーズンに墨田区総合体育館がオープン。ホームでの試合には多くのファンが訪れた)

 

10年以上、フウガを形作ってきた選手や須賀監督と同じ時間を過ごしてきた宮崎だから持ち合わせる感覚だろう。ただし、もしフウガに今、足りないものがあるとすれば、「監督を疑う」意識かもしれない。

物腰は非常に柔らかく、実は意外と口数が多く、思慮深く、冷静沈着。そして、フウガらしい情熱の持ち主。宮崎の言動には、確実に「フウガっぽさ」を感じることができる。ただただ、自然体のその姿に。

「これから? わからないですね。フウガで優勝したい。フウガ以外はないでしょうね」

死神や妖精と呼ばれ、フウガの最古参選手で、墨田区区役所勤務の公務員。そして、フウガを心から愛する人。太見引退後の「フウガ第三章」の向かう先は、背番号6の背中にヒントがあるかもしれない。

 
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